別訳【華厳経】
第17話 善財くん、残虐な刑罰にビビる
2009.12.27
16人目のインタビューが終わった時、善財くんはこのような情報を得ました。
「ここから南へいくと、「満幢」というお城があります。
そこに「満足」という名の王様がいますので、是非、お会いになるといいですよ。」
善財くんは言われたとおりに南へ向かい、いくつもの村や町を超えていくと、果たして立派なお城に到着しました。
早速、歩いていたオッサンを呼び止めてたずねました。
「ちょっとおたずねします。このお城には満足という名の王様がいると聞いてきたのですが、どこに行ったら会えるでしょうか?」
オッサンは答えました。
「王様なら今、仕事中だよ。ウチの王様はとてもオッカナイ裁判官だ。悪いヤツにガンガン厳罰を与えるので有名だぞ!」
善財くんが執務スペースまで行ってみると、満足王はもの凄く立派なイスに腰掛けて裁判の真っ最中でした。
王様の横には執務官が1万人も並んでバリバリと事務手続きを進めており、さらに1万人の屈強な兵士たちが武装して警備にあたっています。
そして罪人たちが次々と引き立てられてきては、ビシビシと処罰されているのですが、その有様のあまりの凄まじさに善財くんは絶句しました。
全身を縛り上げられた罪人たちは、みな容赦なく手足を切り落とされたり、鼻や耳を削ぎ落とされたり、眼をえぐり取られたり、胴体や首を切断されたり、火であぶられたりしています。
あたりにはひっきりなしに罪人たちの絶叫が響き渡り、まさにこの世の地獄のような光景・・・
善財くんは縮み上がりながら思いました。
「こ、こいつはヤバイ!
オレは立派な人の話をたくさん聞くことで知恵と経験を蓄積し、自分も立派な人になろうとしているというのに、この王様の悪逆非道なことといったらなんだ・・・
こんなとんでもない悪人は初めてだ! 早く逃げないと・・・」
王様は善財くんに目をとめると、こういって引き留めました。
「こらこら、まぁそうビビるなよ。(苦笑)
こっちへ来なさい。 城の中を案内してやるから。」
善財くんが恐る恐るついていくと、城の中は見たこともないぐらい豪華な造りで、財宝は充ち溢れ、天女のような美女たちが10億人も控えているではありませんか!
目を丸くしている善財くんに、満足王は言いました。
「どうだ、たいしたもんだろう。 これらが悪逆な方法で得られると思うか?」
善財くんは答えました。
「い、いや、実に信じがたいことですが、これらは厖大な善行の結果として得られるものに間違いありません・・・
いったいこれは、どういうわけなのでしょうか?」
満足王は言いました。
「なあ少年よ、私がマスターしているのはな、自在に「ヴァーチャルリアリティ」を駆使する能力なのだよ。
人間を裁くというのは、とても難しいことだ。
裁かれる側はもちろん辛いし、裁く側だって決して楽しくはない。
できれば、そんなことはしたくないもんだ。
そもそも裁きにかけられるようなことをさせないようにするのが一番なのだが、ちょこっと法律をいじったところで、もうどうにもならなくてな。
どういう罪を犯したらどういう刑罰を受けるのか、公開処刑などのわかりやすい形で示すしかなかったのだ。
少年よ、オマエはそれが残酷で非道な行いだと考えているだろう。
オマエにだけは教えてやろう。
あの罪人たちや処刑風景の数々は、全部私が作り出した「ヴァーチャルリアリティ」なのだ。
よく出来ているだろう?(笑)
少年よ、私はムシ一匹殺せない性格なのだ。
本物の人間に危害など、加えるわけがない。
ああやって、人々に本物ソックリの残虐な処刑シーンを繰り返し見せつけることで、「ああ、悪いことは絶対にやめておこう・・・」と思わせること。
それが、私の犯罪の予防・抑止施策だ。
いいか、人間は誰でも皆、素晴らしい可能性を持っているのだ。
たとえ刑罰であっても、死なせてしまっては元も子もない。
かといって、犯した罪を償わせないわけにもいかない。
この悩みを解消するためには、最初から罪を犯させなければよい。
全ての人々に、「罰せられるようなことは考えるのもイヤだ!」と思わせることができれば、それも決して実現不可能なことではないのだよ。」
善財くんが呆気にとられているのを見て、満足王は言いました。
「私はこの「ヴァーチャルリアリティ」駆使能力によって着実に成果を挙げている。
しかし少年よ、知っているか?
この世界そのものが、実は壮大な「ヴァーチャルリアリティ」なのだということを。
私がやっていることなど、いわばマボロシにマボロシを重ねているだけに過ぎない。
本当の「リアル」はどこにあるのか?
そもそも「リアル」など実在するのか?
それは私にもわからないのだよ。
少年よ、答えが知りたければさらに南を目指せ!
そこには「善光」という城がある。
そしてそこの主は「大光」という名の王だ。
是非、彼の話を聞くといいよ。」