東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。

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超訳【夢中問答】

第1話 もうかりたい!

2008.1.23

足利直義:「さて和尚さま、ひとつ教えてくださいませ。

仏さまは「全ての人々の苦しみを取りのぞいて、楽をさせてやるぞ!」と宣言したということになっているハズですが、お話を聞いてみると「「もうかりたい」などと決して願ってはいけない」というような話ばっかりです。

商売だろうが宝くじだろうがギャンブルだろうが、とりあえずもうけることができれば最高に「楽」になれると思うのですが・・・

こりゃまた、いったい何故なのでしょうか?」

夢窓国師:「ああ、その話ね・・・

だいたい世間並みの「もうけ」を求めるような連中が何をするかというと、商業や農業に励んだり、アレコレと経営戦略をめぐらせたり、発明工夫にいそしんだり、はたまた日々勤勉にサラリーマンをやったりとかいうのがほとんどなのじゃが、結果はといえば、一生涯かけて身も心もすり減らして頑張ったわりには、あんまりたいしたことがないというのが関の山じゃないのかな?

たまたまうまくいって「やったー!幸せハッピー!!」と思うことがあったとしても、溜め込んだ財産は火事で焼け洪水で流され、ドロボウに奪われ役人に奪われるのがオチ。

もしそういったことが一切なかったとしたところで、どうせアノ世までは持っていけやしない。

挙句にほとんどの場合、無理してもうけようとする段階で大なり小なり悪いことをしていたりするものだから、生まれ変わった先にもロクな影響がありゃしない。

これほど「ハイリスク・ノーリターン」な話は他にないとは思わんか?

そのぐらいのことは、ちょっと考えてみればわかりそうなものじゃが、まるでわかろうともしない。

そりゃ「世渡りがヘタだから貧乏なんだ!」などという勘違いも生まれてこようというものじゃ。

よいか?

そもそも原因がないところに結果はあり得ない。

この場合の「原因」とは、決して昨日今日ちょこちょこっと身につけた小ざかしいビジネススキルなどではなく、前世からコツコツと培った「豊かになる」ための行動や努力が、今ようやく効果を発揮するというレベルのものじゃ。

わかるかな?

「スキルやテクニックが不足している」から貧しいのではない。
「根が貧しいヤツ」だから貧しいのじゃ。

ワシがそんなことを言うと、こう言って反発するヤツもおるかも知れんな。

「違います!私がビンボーなのは、給料が不当に低いからです!
評価の仕組みが間違っているのです!
私は経営陣に対して能力の「正当な評価」とそれに見合った賃金アップを断乎として要求します!!」とか、

「あの仕事が成功したのはオレのおかげなのだ。
なのにあの野郎!手柄を横取りしやがって!
とんだビンボーくじもあったもんだ・・・
まったく、やってらんねぇぜ!!」とかな。

もう一度言うぞ。

「評価が不当だから給料が低い」のではない。

「他人が横取りするから手柄が立てられない」のではない。

そういう運命じゃからそうなるなのじゃ。

それではなぜ、「正当な評価が得られない」「手柄を横取りされる」ような運命になったのじゃ?

それは他人のせいでも環境のせいでもなく、ソイツ自身が招いたからに他ならない。

「運命」というものはな、外から来るのではない。
当の本人が、嘆いたり騒いだりしながら招いた結果に過ぎないのじゃ。

じゃあ、どうすればよいか?

いちいち「損した!損した!」とか「ビンボーだ!ビンボーだ!」とか騒いで金持ちをねたんだり恨んだりしないことじゃ。

そういった愚にもつかない「損得勘定」を完全に忘れることができた時にこそ、身も心も豊かになっている自分に気づくことができるというものなのじゃ。

仏教で「もうかりたいなどと願うな!」と教えているのは、つまりはそういうわけじゃよ。

決して「オマエら全員、死ぬまでビンボーしとけ!」と言いたいわけではないのじゃ。

こんな話を知っておるか?

昔々、天竺(インド)にスダッタ(須達尊者)という名の大富豪がおった。

彼はもの凄い大金持ちじゃったが、それ以上に慈善事業が大好きなオッサンで、あちらに飢えている人がいると聞けば飲食物を送り、あちらに貧乏な人がいると聞けば寄付金を送り、とにもかくにも財産をあげてあげて、あげまくって暮らしていたのじゃ。

そんなことをしていてもあっという間に貧乏になってしまわないところが、またスダッタの凄いところでもあったのじゃが、いよいよヨボヨボのジイサンになる頃には財産も尽き果て、親族たちも離散し、長年連れ添った奥さんと2人きりとなってしまった。

で、いよいよ食い詰めて、なにか食べるものはないかと思ってたくさんある倉庫を探しまわれども、全部スッカラカンじゃった。

しかし、かろうじて香木(栴檀)でできたマスを見つけ、それを米4升(5kg強)と交換してもらうことができたので、これで何とか2~3日は食いつなげるだろうと思って一息ついたわけじゃ。

で、その後まもなくスダッタが外出し、奥さんが一人で留守番をしていると、ブッダの一番弟子のシャーリプトラ(舎利弗)が托鉢にやってきた。

なんとまぁ、タイミングの悪い・・・と彼女が思ったかどうかは知らんが、スダッタ夫婦は2人ともブッダの大ファンだったこともあり、喜んで4升しかない米のうち、1升を食べさせてやったのじゃ。

しばらくすると、今度はニ番弟子のモッガラーナ(目連)がやってきたので、1升を恵んでやった。

またしばらくすると、今度はブッダの教団のリーダーであるマハーカッサパ(大伽葉)がやってきたので、やはり1升を恵んでやった。

折角手に入れた米4升は、あっという間に残り1升になってしまったわけじゃ。

しかしまぁ、老人2人なら、これだけあればなんとか今日一日を乗り切ることができるだろう・・・と思っていたところに、ブッダ本人がやってきた。

惜しむ惜しまないの問題ではなく、奥さんは喜んで最後の米1升をブッダに召し上がっていただいたのじゃ。

さて、ブッダたちに最後の食料まで食い尽くされてしまったスダッタ夫人、夫の帰りを待つあいだ、だんだんと不安になってきた。

「夫のスダッタは、人様に自分の持ち物をさしだす「布施」を最優先にして生きてきた人だが、それもこれも、元来大金持ちであり、他人にあげるだけの物資の余裕があったからこそではないのか?

自分たちが飢え死に寸前だというのに最後の食料を人様にあげてしまってよかったのだろうか?

やがて帰ってくる夫になんと言い訳しようか?

こんなことが夫に知られたら、「オマエはアホかーっ!慈善事業も時と場合を考えろ!!」と怒られるに違いない。

ああ、私はなんということを・・・(泣)」

さて、スダッタが帰ってきてみると奥さんが泣いている。

なにごとかと思って事情を聞いたスダッタはこう言って感激したそうな。

「おお・・・妻よ、よくぞやってくれた!!

ブッダとその教え、またその教えを実践する人たちは、何よりも尊いものじゃ。もちろん、私らの身体や命なんかよりもずっとずっと。

まぁ、我らはもうすぐ飢え死にすることになるのじゃろうが、所詮米をケチったところで数日生きながらえるのが関の山だったじゃろう。

そこのところをよく考えて、布施を実施してくれたオマエを、私は誇りに思うよ!・・・」

とはいえ、腹が減って死にそうなので、またさっきみたいなマスでも落ちていないかと思って倉庫に戻り、扉を開けようとするのだが、あら不思議。

扉は固く閉まっていて開かないではないか。

スダッタのジイサンが最後の力を振り絞って扉を打ち破って見ると、なんと、先ほどまでスッカラカンだった倉庫は、米、金銀、布絹などなどの財宝がみっしりと詰め込まれていたそうじゃ。

たくさんある倉庫を調べてみたところ、それら全てにも金銀財宝が充満していた。そう、かつて大富豪だった時のようにな。

あっけにとられたスダッタ夫妻が振り返ってみると、なんとそこには離散したはずの子や孫、親戚たちが勢ぞろい・・・

そしてスダッタは、また元のように大富豪に戻ったということじゃ。

・・・さて、ここでどう考えるかじゃ。

決してこの話を、「ブッダが米4升のお礼に財産を返してくれたんだよね」などと受け取ってはならんぞ!

この衝撃のラストシーンは、スダッタ夫妻の「無欲」ぶりが、まさしく本物だったということを示しているに他ならないのじゃ。

大昔に限らず、現代であったとしても、皆がこのような心を持つことができるなら、金銀財宝や食料のたぐいは、たちまちにして世間に満ち溢れることじゃろう。

少々陳腐な表現で恐縮じゃが、これこそが厖大な「埋蔵金」というヤツなのじゃ。

どうじゃ、少しはピンときたか?

こせこせと小金を求めてどうしようというのじゃ?

「もうかりたい!」というのなら、このスダッタ夫妻の見つけた「埋蔵金」のように、ガッポリともうけようとしろというのじゃ、このバカモノめ!!

ただし、それも「ウハウハになりたい」などというサモシイ心構えでやるならば、この世でうまくいかないことはもちろんじゃが、来世は確実に餓鬼に生まれ変わるじゃろう。」

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