東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。

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超訳【夢中問答】

第10話 有力者なら祈ってもOKなのか?

2009.9.23

足利直義:「・・・しかし和尚、確か仏さまは、「仏教の保護・流通は、金持ちや権力者たちに任せることにする。理想論はともかくとして、そうでもしなければ存続できないと思うからだ!」と仰ったとか。
そういうことであれば、そこら辺の坊主どもが金持ちや権力者の依頼を受けてお祈りや儀式を実施するのも、和尚が言われるほどヒドイことではないような気もするのですが・・・」

夢窓国師:「バカタレ! そもそも仏さまがそう仰ったのは、「そういった有力者こそ真っ先に改心して、皆の先頭となって仏教を流布すべきだ。」という意味なのじゃ。

つまり、トップダウン型の布教活動を目指したワケじゃな。

決して、「仏教パワーを駆使することで、さらに権力や富を得てウハウハになりなさい」とばかりに、彼らに任せると言ったワケではない。

お祈りはつまるところ、人々の幸せのため、ものごとの正しい道理を明らかにするため、世界平和のためにこそ、実施されて然るべきなのじゃ。

それ以外のどんな目的で実施しても、仏さまを裏切ることにしかなりゃしない。

最早とっくに世も末になってしまったワケなのじゃが、それでもまだ仏教は尊敬を失っていないので、坊主どもは徴兵されることもなく、これといって生産活動をするわけでもなく、税金を取られることもない。

で、「どうせブラブラしてるんだったら、せめてお祈りでもしててくださいよ!」、というわけで、権力者たちからの依頼でお祈りを実施しているわけじゃ。

まぁしかし、このところ紛争が多発しておるおかげで、西でも東でも「お祈り」が盛んに行われておるのじゃが、ワシに言わせれば、あんなんじゃまるでダメじゃな。

お祈りにもなんにもなっちゃおらんよ!

いいか?

仏教における「お祈り」とは、この世に満ち溢れる様々な条件や要因、思いなどを整理統合して、然るべき結果へと導くためのものなのじゃ。

そうであるが故に、正しく実行したならば、成功しないということがない。

昔の立派な坊さんたちが実施したのもまさにそれで、「国家安全・無病息災」と唱えつつも、そのお題目を通じて一般大衆に「思いやり」「まごころ」といったものの大切さを強く訴えていたのじゃ。

「儲かりたい」とか「権力者になりたい」などの気持ちが入り込む余地は、そこにはない。

そしてその「皆の幸せを願う」気持ちの放射が実に強力であったため、権力者や金持ちはもちろんのこと、一般大衆も全てそれに感じ入って心をひとつにすることができたのじゃ。

「あらゆる願いごとが全てかなう」というのは、そういう状態のことではないのかな?

さて、今はといえば、権力者や金持ちはもちろんのこと、坊主ども自身ですらも、マジメに仏教を信じてなどおらん。

そんな状態で、ただ日常的にお祈りを繰り返したところで、それは全くかたちばかりのことじゃ。

ボンクラのサラリーマンが毎日タイムカードをガシャンと押しているのと大差ないとは思わんか?

そんな連中が、たまに一大イベントとして大法要を行うといったところで、依頼する方もたいして期待しておらんので、供物もかたちばかりとなる。

そんな状態で実施されるものは、もはや「お祈り」とは呼べない。

「願いごとがかなう」ための役になど、立つわけがないよな!

今、鎌倉に智光という名の中国人の名医が来ているのじゃが、ある時「蘇香丸」という丸薬を練り合わせていたところ、見学していた人が好奇心から一粒ツマミ食いしてしまったとか。

それを見た智光さん、こう言って叱ったそうじゃ。

「あっ、こら! 何をしているんだ! もっとたくさん飲め!!」

で、言われた側もビックリして、「はい!?」とたずね返したところ、「薬というものには、それぞれに決められた内服量というものがあるのだ。どうせ飲むなら、効き目をあらわすのに必要なだけの量を飲みなさい!」と答えたとか。

お祈りだって同じことじゃ。

どうせやるんなら、ちゃんと効き目が出るようにやれというんじゃ!!

いいか?

お祈りパワーの強弱は、「やる側の心がどれだけしっかりと定まっているか」による。

「お祈りサービス料」をたくさん支払えば、それだけ強力になるというものではないのじゃ!

もう一度言うが、お祈りでも何でもそうじゃが、「やるならちゃんと結果が出るようにやれ」ということじゃな。

それから仏さまがトップダウン型の布教活動を目指して、特に権力者や金持ちたちにそれを委ねたのはな、食べるにも事欠くような貧乏人たちにはとても無理だと考えたからじゃ。

ここで誤解してはいかんぞ。

仏さまは、「貧乏人は救いようがない」と考えたのではなく、「貧乏人を救うことは、むしろ簡単だ」と考えたのじゃ。

不幸のどん底にあるような人たちは、「心のよりどころ」をひとつだけ、何でもよいから持てればそれで充分救われる。

しかし、ほとんどの場合は、その人だけが満足して終わってしまい、それを他に及ぼすところまで行き着かない。

色んな意味で、余力がないからじゃな。

そこで仏さまは、権力者や金持ちたちに、さらに高いハードルを掲げたのじゃ。

「自分自身の心が救われても、そこで立ち止まってはいけない。自分のサクセスストーリーのみに固執して、未知なる手法の可能性を否定してはいけない。自らがゴールインしたと感じたなら、そこを新たなスタート地点とみなして、さらに皆とともに進め。しかも、皆のための給水所や休憩所を設置しながら進め!」とな。

これはつまり、フルマラソンを走りきった者に対して、直ちに落伍している人たち全員をゴールまで連れてくるように命令するようなもんじゃ。

しかも、薬品や食料・飲料などを大量に背負わせてな。

そんなこと、超人的な体力と気力の持ち主にしか、到底できることではない。

つまり仏さまは、権力者や金持ちたちには、そのぐらいの能力があると認めて任せてくれたわけじゃ。

なんとまあ、かたじけないことじゃとは思わんか?

話を戻すが、「有力者によるお祈り」はOKじゃ。

ただしそれも、今言ったようなことを肝に銘じて実施する場合のみじゃ。

そもそも、有力者を有力者たらしめている理由をよく考えても見ろ。

それは決して本人の努力だけでは説明がつかないハズで、背後には必ずものごとの正しい道理があり、それを正しく発揮するための様々な条件があるのじゃ。

そしてそれを明らかにしてくれたのが仏さまじゃ。

もしも、そのことを忘れておるというのでは、そいつはもう有力者とは呼べない。

そんなヤツのお祈りは、全て無効じゃ!!」

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