東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。

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超訳【夢中問答】

第11話:あの世での幸せを祈るのはOK?

2009.10.22

足利直義:「なるほど、そんなもんなんですかね・・・

確かに「今すぐ金持ちに!」とか、「ずっと長生きしていたい!」とかの祈りはイマイチのような気がしてきました。

・・・しかし、そういうことであれば、生まれ変わった先のことをお祈りするというのはどうでしょうか?
これは、それなりにイケてるんじゃないですかね?」

夢窓国師:「ふん!
そもそも今どきの連中が「この世」だと考えているものは、前の世において「あの世」と考えていたもののことじゃ。

そして今、「あの世」だと考えているものは、あの世になってから見てみれば、ただの「この世」に過ぎない。

そういうわけだから、今、この世において発現している様々なできごとは、全て「前世の報い」だということになるのじゃ。

つまり、今この瞬間、目の前にあるものは全て、前世においてあれこれと祈った結果として獲得されたものなのじゃ。

同様に、今、あの世のことを祈れば、きっとあの世に影響が現れることじゃろう。

どうせ祈るなら「この世」より「あの世」のことにしておけ、というのはつまり、そういう理屈からなのじゃ。

で、なんじゃって?

「あの世のことを祈るのはOKか?」じゃと?

確かに、どうせたいして長いこともない「この世」における幸せなどとっとと諦めて、あの世における幸せを祈る方が、既に取り返しがつかない過去の原因によって現れた現在の結果を「ひょっとしたら何とかなるかも!」などとカンチガイして祈りまくっているような連中に比べれば、少しはマシかも知れんな。

とはいえ、その「あの世における幸せ」というのが、「金持ち」とか「長生き」であるのだとすれば、それは全然同じことじゃ。

五十歩百歩とは、このことじゃな。

「それじゃあ、もっと高次元の哲学的真理を祈ることにしよう!」などと考えたところで、結局「自分ひとりが幸せならばよい」という気持ちが残っている限り、それもやはり、五十歩百歩なのじゃ。

オマエは聞いたことがないか? 菩薩は決して、自他を問わず「特定個人のために尽くす」などと考えないということを。

普賢菩薩には「十大願」という有名な菩薩宣言があるのじゃが、まず最初のものは、「ああ、オレが奉仕すべき対象である如来は無数に存在するので、とても身体ひとつでは足りやしない! そうだ、オレ自身も無数に分身すれば対応可能だ! ああ、オレの身体よ、分身しろ!! そしてそれが未来永劫、一瞬たりとも途切れることなく続きますように!!」というものじゃ。

そして、「無数の有能な手下ども、出現せよ! そしてそれが未来永劫、一瞬たりとも途切れることなく続きますように!!」と続くのじゃ。

まぁ、その後もずっとそんな調子で続き、9番目の願いはこうじゃ。

「ああ、無数のオレの分身たちよ、生きとし生ける者すべてに対し、仏さまに対するのと同じように精魂込めて奉仕せよ! そしてそれが未来永劫、一瞬たりとも途切れることなく続きますように!!」

で、ラストとなる10番目はこうじゃ。

「ああ、オレが無数に分身して無数の人々に対して奉仕し続けることによって獲得される膨大な善のエネルギーよ、決してオレの中になど溜まるな! むしろ発生源である無数の人々のもとへ帰ってゆけ! そして無数の人々よ、それを使ってもっともっと立派になるのだ!!」 

これこそが「回向(えこう)」と呼ばれる必殺ワザじゃな。

・・・まぁ、ちょっとハッタリめいたところがあるのはワシも認めざるを得ないが、たいしたものではないか。

「もっと高次元の哲学的真理を祈る」というのなら、せめてこのぐらいやらなければダメなのじゃ。

それにひきかえ、世のバカモノたちはといえば、「お祈りする」と言ったところでせいぜいが自分の信じる神や仏ただ一種類だけ。

しかも、「先祖供養」とかなんだとか言っても、結局のところ自分が世話になったことがある人に対してするばかりで、それ以外のものに対して実施することは、まず無いと言ってよいじゃろう。

そんな狭い了見でやるもんだから、たいした効果も得られやしないのじゃ。

逆に、たまたま一種類の神や仏に対して祈ったり、とある人ひとりに対してだけ奉仕することがあったとしても、それによって得た善のエネルギーのベクトルを転回させる「回向」の力が強大であったなら、最高に皆のためになる。

某著名宗教では、「自分のお父さんお母さんを大切にしよう!」ということばかりを強調しているようじゃが、それは発想が「この世」に限定されているからじゃ。

仏教はそうではなくて、「生きとし生ける者は皆、まるで高速回転する車輪のようにぐるぐると死んだり生まれたりを繰り返す。人間になったり動物になったり虫になったりと、そりゃもう大忙し。男であったり女であったり、父であったり母であったりとめまぐるしく相互の関係も移り変わる。そんなわけだから、もはや自分と全く関係の無い人など、いるわけがないのだ!」と説明する。

いわゆる菩薩たちはみなその理屈を知っているから、「自分が恩を受けた相手」と言った場合、あっという間に7代以上前の先祖たちの範囲を超えていく。

なんでまた、一代限りでなど考えたりするものか! 」

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