東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。

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超訳【夢中問答】

第18話 「魔」とは何か

2011.1.9

足利直義:「・・・話を変えさせてください。
仏教修行は気をつけて実施しないと「魔道」に入ってしまう危険性があると聞いたことがあります。
これはいったい、どういうことなのでしょうか?」

夢窓国師:「仏教を妨げようとする行為を「魔業」と呼ぶ。
そして「魔業」をしたが最後、必ず「魔道」に入ってしまう。

詳しいことは大般若経の「魔事品」、首楞厳経(しゅりょうごんきょう)や天台宗の修行マニュアル「止観」に書かれておるからそちらを読むといい。

要約して言うなら、魔には「内魔」と「外魔」の2種類があるということじゃ。

魔王だとかその使い魔だとかが外部からやってきて修行者にイヤガラセをする、というのを「外魔」という。
魔王は欲界の頂点である「第六天」に君臨しており、天魔とも呼ばれる存在じゃ。
で、世間で「天狗」などと呼ばれておるのがその使い魔じゃ。

魔王は、人間たちは全て自分の家族だと思っておる。
俗世間での事柄にしか興味のない人間は、永遠に輪廻の連環から脱出してしまう心配がないので、ちょっかいを出されることはない。

しかし、仏教の修行が完成すると脱出できてしまう。
そうなると自分の世界の住人が減ってしまうことになって具合が悪いので、魔王は必死にジャマしにくるというわけじゃ。

魔王たちの神通力は強力で、空を飛ぶことはもちろん、身体から光を放ったり、過去や未来のできごとを見通したり、仏や菩薩の姿になって仏教の教理を講釈することなど余裕でできてしまう。

涅槃経にはこんなエピソードが書かれておる。

ある日、アーナンダが外出先から帰ってみると、900万人のブッダが勢ぞろいしていた。

姿かたちは全員ブッダそのもので、まったく見分けがつかない。

しかも、互いに仏教の教理を滔々と述べては言い争っているではないか。

アーナンダはどれが本物のブッダかまるでわからなくて、ただもう、茫然と立ちつくすばかりじゃった。

そこでブッダが文殊菩薩に一喝させたところ、全員クモの子を散らすように退散したとか。

誰よりも長くブッダ本人の横につき従い、誰よりもたくさんブッダ本人の教えを聞いていたアーナンダでさえ、簡単におちょくられてしまう。

そこら辺のボンクラどもがかなうハズがないよな。

「霊能力者」などと称する者を有り難がるような連中は、まず「魔道」に入っていると考えてよいと思うぞ。

一方、外からくる悪魔に悩まされることはなくても、知識や能力をひけらかしたり、あれこれとカンチガイして調子に乗ったり、素直に人の意見を聞くことができなくなったり、自分ひとりだけよければOKなどと考えたり、はたまた「可哀そうな人」に恵んでやることで悦に入ってみたりということがあるとするならば、これらは全て「内魔」に憑りつかれているといえる。

体調を崩したり、事故や事件に巻き込まれたりして修行が途絶えてしまうのは「魔境」じゃ。

マジメなヤツが思いつめるあまり、「ああ、寝る間も惜しい!メシを食うヒマも惜しい!ああ、なんでもっと早く悟れないんだ!チクショウ、チクショウ!!」などとひとりで大騒ぎして涙ぐんだりしているようなのは「魔障」といえる。

逆に、「ああ、めんどクセェ・・・ ダリィんだよなぁ・・・」とかなんとか言っては修行をサボるのも「魔障」じゃ。

また、ある人に心酔するあまり、その人の「小便であっても飲みたい!」などと考える。

これもれっきとした「魔障」じゃ。

逆に、立派だと思って尊敬していた人のちょっとしたスキャンダルを耳にして、「なんやしょうもない!さてはこれまで聞いてきた教えも全部ウソだな!?」とばかりに全否定してしまうのも「魔障」じゃ。

「貪り」「怒り」などの感情が強力に沸き起こってくるのはもちろん「魔障」。

そういった感情を消し去ることができないからといって悩むのも「魔障」。

このような様々な「魔障」は、修行者の肝が据わっていない場合に発生する。

しかし、肝がちゃんと据わっておったとしても、発動することがあるのじゃ。

ただ、その場合は、ロウソクが消える瞬間にパッと明るくなるようなものなので、ことさらに驚いたり慌てたりしなければ、じきに収まるので問題ない。 」

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