東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。

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超訳【夢中問答】

第41話 世間と折り合いをつける方法

2007.7.26

足利直義:「そりゃ確かに根が優秀な人ならば、環境に左右されたりすることはないでしょう。
とびきり優秀、とまではいかなくても、シッカリした性格の持ち主ならば、あるいはどんな環境でも迷うことなく進んで行くことができるということもわかります。

しかし・・・しかしですよ?

世の中のほとんどの人は、そんな才能もなければ、根性もありません。 名誉になびき、利益につられ、なんというかもうヘロヘロです。
とてもではありませんが、じっと座っていることすらままならないありさまです・・・

和尚は、「そんなヤツラは勝手に苦しんどけ!」とおっしゃるのですか?!
見込みのない人々は、救いようがないのでしょうか?・・・」

夢窓国師:「いやいや、ワシゃそこまで言っとらんぞ・・・
そうじゃな、ちょっと説明が足らんかったかな。

今、オマエさんは「環境」と言ったと思うが、「環境」には2種類あってな。

何でもかんでも自分の思い通りである、というのを「順境」という。
そうではなくて、いちいちムカツク!、というのを「逆境」という。

で、そこいらのボンクラは、この「順境」ばかりを愛して、「逆境」を忌み嫌っているわけなのじゃが、こここそが「ボンクラ」の「ボンクラ」たる所以なのじゃ。

「順境」を願う心と「逆境」を嫌う心、その2つは実は同じものであり、また共に地獄に直行する道であるということが理解できていないのじゃ。

よく世間のことを「シャバ(娑婆)」と言うじゃろ?
これ、どういう意味か知っとるか?

「刑務所の外」のことだろうって?・・・何の映画の見すぎなんじゃ!

・・・まぁ、知っとったらさっきみたいな質問はしないじゃろうから無理もない。

いいか?「シャバ」とは、サンスクリットで「欠減」という意味なのじゃ。

つまり、「苦しみしかない」「ロクでもない」「満足することがない」、「どんな願い事も叶うことはない」という意味なのじゃ!!

シャバにありながら「自分の思い通りになる」ことを願う。

それは即ち、「涼しくなりたいと思って火の中に飛び込む」ようなもんじゃ。

「希望」が消え去れば、「絶望」も同時に消滅する。

その2つを作り出しているのは、決して外部の環境などではなく、その者の「心」の動きに他ならないからじゃ。

ワシが若い頃に田舎で下宿生活をしていた時のことを話してやろう。

仲間の坊主の中にエライ気の短いヤツがおっての。

やたらとケンカっ早くて困った性格だったのじゃが、ある日、そいつがワシの部屋に一人で尋ねてきたんじゃ。

そいつはワシに向かってこう言った。

「オレって、どうしてこんなに気が短いんだろう・・・
いつも後悔するんだけど、昔からずっとこんな性格で、あちこちでケンカばかりしてしまって・・・」

ワシは言ってやったよ。

「オマエさんは、闘う相手を間違えているんじゃないか?

本当の「ケンカ上手」というのは、誰が敵の大将であるのかを見抜くのがうまいヤツのことじゃ。

ザコなんか放っておけばいい。
大将一人を倒しちまえば、それでもうオマエの勝ちなんじゃから。

さて、オマエの敵の大将は誰かな?

悪口を言われたり殴られたりするのがムカつくって?

いくら悪口を言われようが殴られようが、それでオマエが地獄に落ちるわけではないじゃろう。

それよりも問題なのは心のムカつきの方じゃ。

ムカッと思う一念は、それまで築きあげてきた修行の努力を一瞬で台無しにしてしまうパワーを持っているからじゃ。
地獄がその度ごとに身近になるのは言うまでもない。

もうわかるじゃろう?
真の「ラスボス」は、オマエの心の中に生じる「ムカツキ」そのものなのじゃ。

もし、次にヤツがあらわれたなら、全力でそいつを撃ち滅ぼしてしまえ!!」
とな。

そいつはワシの言葉を聞くと号泣しながら帰っていったのじゃが、それからというもの、人が変わったように温和な性格になったよ。

また、別のヤツの例もあるぞ。

それも同じ頃の話なのじゃが、ワシの下宿先にはフロがなくてな。いつも近所の坊さんの家までフロを借りに行っていたのじゃ。

そこの家のフロ場にある柄杓は面白いつくりをしておってな。竹筒の真ん中に節があって、両方でお湯を汲めるようになっていたのじゃ。

・・・まぁ、なんというか、単なる節水対策なのじゃが。

で、ワシの下宿仲間に、この柄杓を見るたびにこんな文句を言うヤツがおった。

「なんやねん、このヒシャク・・・
こんなんしたら湯が汲みにくいっちゅーの!
まったく、セコイ主人やで!!
だいたいあいつは昔からセコイやつで(以下略)」

ワシは言ってやったよ。

「まぁまぁ、そう言うなよ。

聞くところによると、仏や菩薩は芥子粒の中に須弥山を入れることができるそうじゃないか。

で、須弥山が入ったからといって、芥子粒が巨大化するわけでもなければ、須弥山が縮小するわけでもないと。

維摩のオッサンは自分の部屋に67万km以上もあるアホみたいなサイズの椅子を3万2千脚も入れたという話じゃが、後日その部屋のサイズを測ってみたところ、なんと四畳半しかなかったそうじゃ。

今オマエさんがムカついているのは、この柄杓が小さすぎることに対してなのじゃと思うが、もしもオマエさんがこの境地を得ることができたなら、その同じ柄杓でもって海の水を全部汲み上げることだってできるハズじゃ。

わかるかな?

小さいのは柄杓ではなく、オマエの心。

セコイのは主人ではなく、オマエさんなのじゃ!

・・・なーんちゃってみたけれど、ぶっちゃけワシもそんな境地には達していないので、大きいものを見れば「大きいなぁ」と思うし、小さいものを見れば「うわ、ちっさ!」と思うよ。

じゃがな、さっき言ったみたいな理屈を知っているから、大きいとか小さいとかでイチイチムカついたりはしないのじゃよ。」
とな。

そいつはそれ以来、その柄杓を見ても、「以前ほどはムカつかなくなった」と言っていたっけな。(笑) 」

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