東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。

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超訳【列子】

1-14 杞憂 -天は落ちるか?

2007.12.7

2500年ぐらい昔の話です。

当時中国にあった杞(き)というとても小さな国に住む人は、極めて心配性の人たちでした。

細かいことをアレコレと心配しまくった挙句、遂に次のような大心配に行き着きます。

天が落ちてきたら逃げ場がない・・・

地が崩壊したら逃げ場がない・・・

心配のあまり夜も眠れず、食事もノドを通らないというありさま。

で、その人があまりにも心配しているという状態を、さらに心配する人がいて、なんとか安心させるために言いました。

「天が落ちてきたら逃げられないって?
大丈夫だよ、天は落ちてこないよ。
そもそも天って何でできていると思う?
わたしたちが天だと思っているものは、実は大気のあつまりに過ぎないのさ。
現にこうやって吸ったり吐いたりしている空気と、なんらかわらないものでできているのだよ。
こうやって身体を動かしてみても、空気が邪魔で・・・なんてことにはならないだろう?
そんなものが落ちてくるわけがないじゃないか!」

天地崩壊を心配する人は、さらに質問しました。

「な、なるほど、それはそうかも・・・
で、でも、天の高いところにある太陽とか月とかはどうでしょう?
あんなものが落っこちてきたら、わたしらはひとたまりもないですよ!」

天地崩壊を心配する人を心配する人は答えました。

「いやいや、それはないね。
あの太陽や月だって、光り輝いてみえるからオッカナイように見えるけれども、やはり大気が集まったものに過ぎないんだよ。
万一、落っこちてきたところで、大丈夫、大丈夫!
空気なんだからケガなんてしないさ。」

天地崩壊を心配する人はさらに質問しました。

「な、なるほど、そんなもんなんですね・・・
そ、それでは、地面はどうでしょう?
地面は空気なんかとは違ってわたしたち皆をしっかりと上にのっけています。
これは空気と違って壊すことができますよね?
地面が壊れてしまったら・・・わたしたちはもう終わりですよ!?」

天地崩壊を心配する人を心配する人は答えました。

「いやいやいや・・・
確かに地面は空気とはちがうけれども、これは世界の果てまでしっかりと敷き詰められた厖大な土のかたまりなのだよ。
すき間なくピッチリと敷き詰めてあるので、いまさら底が抜けたりなんてするわけがないよ。
試しに思いっきり足踏みしてみろよ。
な?しっかりしたもんだろう?
壊れるわけないって!
だからもう、そんなことを心配するはよしなって!」

それを聞いた天地崩壊を心配する人は、すっかり安心して大喜びしました。

それを見た天地崩壊を心配する人を心配する人は、説得がうまくいったので大喜びしてガッツポーズを決めました。

隣の楚(そ)の国の哲学者である長蘆子(ちょうろし)は、その話を耳にしてせせら笑いました。

「なるほど、虹や雲や霧や風や雨、また四季のうつろいなどは皆、天の中で気が寄り集まることによっておこる現象だ。
同じように、川や海、金属や石、火や木などは地上で物質が寄り集まってかたちづくられた現象だ。
物質だろうが空気だろうが、集まってできたものが再び分解しないなどという理屈がどこからでてくるんだ?
全宇宙の存在からみれば、この地球の大気や地面などまるでちっぽけな存在に過ぎないのだが、それでも我々が実感できる中では最大のものだ。
その中で細々とうごめいているだけのような我々ごときにとって、その本質が何であるのか、また寿命がどれほどなのかなど、そう簡単にわかるはずもない。
であるからといって、今すぐ崩壊するかも知れないなどと心配するのは完全なアホウだが、この先ずっと崩壊しないと断言するのもやはりアホウといわざるを得ないだろう。
滅びる時が来たなら、天地であろうとも滅びなければならないのだ。
そんな時になって、逃げようとか助かろうとか考えたところで、どうすることもできないだろ?
みんな死ぬ時は死ぬんだよ!」

さて、それらの話を聞いた我らが列先生は、笑いながら言いました。

「天地が崩壊する!などと言い張る連中も、天地は崩壊しない!と言い張る連中も、なんというか、まぁ、どっちもどっちだね。
なんだかんだ言ってみたところで、結局お互いになんの根拠もないわけだし。
聞いている分にはどちらも一理あるように聞こえるわけだけれどもね。
例えば、生きている人には、死後の世界などわかりようがない。
また同じように、死んだ人には、この世のことなどわからない。
未来の世界を生きる人には、過去の世界のことがわからない。
過去の世界を生きる人には、未来の世界のことなどわからない。
結局のところ、天地が崩壊するかしないかなんて、わかりようがないのさ。
ハイハイ、やめやめ!
そんなこと、心配したり議論したりするだけムダなことさ。」

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