東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。
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別訳【荘子】

24-6 オノをふるう妙技

2009.4.19

徐無鬼 24-6
 
最大の口ゲンカ友達だった恵子(けいし)の葬式に出席した荘子は、帰り際にその墓を振り返りつつ、傍らの人にこぼした。
 
「なぁ、あんた、こんな話を知っているかい?
 
昔々、郢(えい)という国に大変腕のたつ左官がいてな。
そいつに壁を塗らせたら、実に天下一の美しい仕上がりだったんだ。
 
ある時そいつは、壁を塗り終わってから仕上がりを確認したところ、上の方に小さな窪みがあるのを発見した。
 
気泡が入ってしまって、その痕が残ってしまっていたわけだ。
 
いまさら脚立をだしてくるのも面倒だと思ったのか、そいつはその壁を塗るのに使った土をひとつかみすると、そのくぼみに向かって投げつけたんだ。
 
投げつけられた壁土は、ビシャっと広がってその窪みを見事に埋め、完全に平らな表面に仕上がった。
 
まさに絶妙の技だな。
 
ところが、その壁土がちょっとだけはね返ってきて、ちょうどハエの羽みたいな感じに、そいつの鼻の頭にくっついたんだ。
 
それを見ていた同僚の大工、「オレが取ってやるよ!」というと巨大なオノを取り出すと、そいつの顔面めがけて振り下ろした。
 
オノはゴオっとうなりをあげながら鼻先を通過し、くっついていた土だけをスッパリと削り取った。
 
で、鼻の頭に傷ひとつつかず、そいつもまた顔色ひとつ変えなかった、と。
 
その後しばらくしてから、その話を聞いた王様がその大工を呼び出して、「オマエ、凄いワザを持っているんだってな! ひとつやって見せてくれ!」と依頼したんだそうだ。
 
すると大工はこう言ってそれを断ったとか。
 
「王様、あれは顔面にうなりをあげてオノを振り下ろしても顔色ひとつ変えないでいられる彼あってのワザだったのです。
そして、残念ながらその彼はもうずいぶん前に死んでしまいました。」
 
・・・オレももう、これからは妙技のふるい様がなくなっちまった、ってわけだな。」


原文
 
荘子送葬、過恵子之墓、顧謂従者曰、
「郢人堊慢其鼻端、若蝿翼。
使匠石斫之。
匠石運斤成風、聴而斫之、尽堊而鼻不傷、郢人立不失容。
宋元君聞之、召匠石曰、『嘗試為寡人為之』。
匠石曰『臣則嘗能斫之。
雖然、臣之質死久矣』。
自夫子之死也、吾無以為質矣。
吾無与言之矣。」

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