東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。

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超訳【維摩経】

第55話 ないものはない

2007.12.23

アチラ側の菩薩たちは、世尊に向かって言いました。

「いやはや、なるほど!
実はここだけの話ですが、我々は最初にこのシャバ世界を見た時に、あまりのくだらなさに呆れ果てて、「うへぇ、しょうもねぇ!」とか、「ダセェ・・・」とか、すっかりバカにしてしまっていたのですが、今となってはそんな気持ちを持ってしまった自分たちを恥ずかしく思います。

このシャバ世界が、呆れ果てるほどくだらない姿に見えるのは、純粋に貴方が「説明の都合上」、そのように見えさせているだけなのですね!?

なんとまぁ、手の込んだことをなさるものです・・・

そうだ、世尊様、ほかにもなにか面白いお話はありませんか?
アチラ側の世界への土産話にしたいのですが。」

世尊は答えました。

「おお、そうかそうか。
では、「尽きること」と「尽きないこと」という話をしてあげよう。

いいか?よく聞きなさい。

「尽きること」とはいったい何か?
それは「作られたこと」のことである。

「尽きないこと」とはいったい何か?
それは「作られなかったこと」のことである。

さて、菩薩の境地ともなれば、「作られたものは滅びるべき!」などとムキになることもなく、さりとて「もはや何も作られない。何もなくてスッカラカンだ。よっしゃ!」などと一人で悦にいることもない。

どういうことかというと、「全ての事柄は尽きる」からといっても決して「何ごともむなしいんだ」などという虚無主義に陥ることなく、世のため人のために努力し続けることをあきらめてはいけない、ということだ。

ちょっと努力してうまくいかなかったからといって決してグレたりムクレたりせず、ありとあらゆる智慧と手段を総動員してガンバれ、ということだ。

ほめられても浮かれるな!しかられてもくじけるな!ということだ。

自分より知識のない人をバカにせず、自分より知識のある人にはまるで仏に対するかのように敬意を表しなさい、ということだ。

自分が楽しければ嬉しい、というのではなく、他人が喜び楽しんでいる様をこそ嬉しがりなさい、ということだ。

「禅定・不動心」などというものを言い訳にしてボサっとしているのではなく、持てる智慧を最高に研ぎ澄ませて自分の心の中の煩悩を滅ぼすのだ!

「自分は○○だ」などというくだらない定義づけは、全て打ち砕け!

世界の全てを自分の肩の上に担ぎ上げろ!

愚にもつかない巷のゴシップ情報を追い求めるな!むしろそれらをどうやったら超越できるのか工夫することに全力を注げ!

そうだ、奮い立て!

・・・とはいっても、社会のルールはちゃんと守りなさいね?

以上が、「作られたものは滅びるべき!」などとムキにならない、ということだ。

では、「もはや何も作られない。何もなくてスッカラカンだ。よっしゃ!」などと一人で悦にいることもない、とはどういうことか?

それは、人生のつらさや苦しさを知り抜いた上で、生きること、死ぬことを憎まず恐れないということだ。

世の中の全てはうつろいゆくということをよく理解した上で、「どうせやってもムダ」などと決して思わないことだ。

もはや何もすることはないとは思っていても、困っている人のためにあれやこれやと世話をやく。

汚れをなくしたいと強く願いながらも、汚れに触れることをためらわない。

結局のところ、あらゆる物事は本体をもたない幻であると悟っても、この世の中の全てがそれを悟るまでは、仮の方便として智慧などがさも実在するかのように駆使してことにあたる。

それが、「もはや何も作られない。何もなくてスッカラカンだ。よっしゃ!」などと一人で悦にいることもない、ということだ!

いいか?

「もはや何も得ることはない」という悟りは、やってもムダだからサボっていろ、ということではないのだ。

「全てはマボロシである」という悟りは、そう悟るための智慧までも否定するものではないのだ。

ありとあらゆる物事は「ない」のだ。
つまり、捨ててよいものもまた、「ない」のである。

私はこれを、「ないものはない」の境地と名づける!

・・・こんなもんでどうだい?」

それを聞いたアチラ側の世界の菩薩たちは、とてつもなくよい匂いを全身から噴出させて大喜びしました。

そして、「いやぁ、この世界の仏様は、まさに口八丁手八丁ですね!」と言い残すと、全員一瞬で姿を消し、アチラ側の世界に返っていきました。

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