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6月

夕刻、ぶんちん堂・書籍出版事業本部にて。 事業本部長(以下、部長):「ううむ、雨か。 湿度が低すぎるとレーザープリンタの静電気がオーバーチャージになりやすくて心臓に悪いから、ちょっとぐらい湿り気があるのはありがたいのだが、用紙が湿気ってしまうと、こんどは超絶にカールするようになり、また印刷の歩留まりが下がってしまう・・・ おい、どうだ、調子は?」 制作:「まずまずです。原稿や体裁などのノウハウが確立した「維摩経」に関しては、ご覧の通り10冊以上の在庫が積みあがりました。 「金剛経」に関しては、当初予定していなかった「般若心経」と「不思議光菩薩所説経」に加えて、それぞれの漢訳原典を同時収録することになったため、作家に前書きの書き直しを依頼せねばならず、原稿が出揃ってから目次なども調整していたため、今ようやく製本見本が一冊あがったところです。 これから最終の仕上がりチェックをし、問題がなければ本格的に印刷・製本作業に入ります。」 部長:「おお、それは素晴らしい! その調子でどんどん頼むよ!! ところで2巻目の超訳・「無門関」はどうした?」 制作:「・・・実は誠に申し訳ないのですが、既に完成していた原稿のうち、目次ページのデータを作家が酔っ払った勢いで失ってしまったのですよ。 さらに不幸なことに、目次ページに関しては本部でもバックアップを持っていなかったため、作り直さなければなりません・・・」 部長:「なんだと!? すぐにやり直させなさい!」 制作:「はい、既に再作成の依頼をしています。 ところが、本文に書き直したい部分がかなり発見されたとかで、作家が目次以前に内容全体の見直しに入ってしまったのです。 確かに初版の原稿を書いたのはだいぶ前になりますから、今の彼から見たら間違いだらけで我慢ならない部分も多かろうというのはわかるのですが・・・」 部長:「ううむ、また中途半端なことを・・・ 原稿はいつになりそうなのだ?」 制作:「全く不明です。 初版が2冊残っていますから、いざとなればそれを・・・」 部長:「改訂版が製作進行中なのを知りながら、いわば旧版を出荷するというのも良心の呵責を感じるな・・・ ともかく、作家には急がせなさい。 どうせ100%のものなんか、いつまでたってもできやしないんだから、適当なところで印刷に回すように強く言っておけよ!」 制作:「了解しました。」 営業:「お願いしますよ。モノがなければ我々は仕事にならないんですからね。」 部長:「そうだとも。 ・・・あれ?印刷担当者はどこへ行った?」 制作:「腹がへったとかで、メシを食いに行っちまいました。 この時間からだと、恐らく酒が入ってしまうと思うので、今日はもうここまでですね。」 一同:「やれやれ・・・」

夕刻、ぶんちん堂・書籍出版事業本部にて。 事業本部長(以下、部長):「諸君、お疲れさま! 今、「超訳・維摩経」の増補改訂版が完成した。これでようやく、半年以上も欠品していた書籍版「超訳・維摩経」を再び世に問うことができる。これも全て諸君らの努力のおかげだ。本当にありがとう!」 部長:「今回特筆すべきは、背文字が入ったことだな。見てみろ!俄然、それっぽいぞ!(喜)」 部長:「それに裏表紙を見ろ! ぶんちん堂のロゴマークだ、可愛いだろう? 古代文字の金文の「文」を図案化したものだ。簡単そうに見えるだろうが、結構苦労したんだぞ。」 部長:「おまけに本文の文字を一まわり大きくした。高齢化時代に優しい紙面となったかと思うが、どうだろう?」 部長:「・・・どうした?なんかテンション低いみたいだが。」 営業:「・・・いや、完成したのは素直に嬉しいと思いますよ。 ただ、あれだけの時間と労力を費やして、やっと6冊作れただけというのがちょっと。」 部長:「いいじゃないか、最初は6冊でも。 原稿はもとより資材も機材も揃っているし、なによりも制作ノウハウが確立できたわけだから、あとは印刷・製本の作業さえすれば、いくらでも刷り増せるだろ?」 制作:「いやいや、気軽におっしゃいますけどね。各工程毎に、まだ課題山積なのですよ。」 部長:「何が問題なんだ?」 制作:「なによりも、印刷工程です。 今回の作業のために両面印刷可能な高速プリンタを導入して下さったことは、本当にありがたく思っています。 おかげでゲラ刷りは一瞬で終了するようになり、レイアウトがとても楽になりました。」 部長:「いいじゃないか。」 制作:「問題は用紙です。 通常のコピー用紙は芯が印刷方向に対してタテに入っている、いわゆる「タテ目」です。 ところが、超訳文庫用に大量に仕入れた書籍用紙は、「ヨコ目」なんですよ。 おまけに相当に薄手です。 すると何が起こると思いますか?」 部長:「いや、なんだろう。初版のときはそんなに問題なかったハズだが?」 制作:「用紙が詰まってしまうのですよ! 今のプリンタは本当に優れものなのですが、紙送りがキッチリした機構となっていることが仇となって、表面は大丈夫なのですが、裏面を刷ろうとしますと、とても嫌な音を立てて詰まってしまうのです。 見てください。なんとか詰まらずに出てきたところで、こんなんですよ。」 部長:「うーむ、確かにこれでは・・・」 制作:「通常の方法だと、ほぼ90%以上の確率でこうなっていたのですが、我々は長時間かけて研究・協議を重ね、ついにロスを10%以下にまで減らすことに成功したのです。 今回はこのブレークスルーによって、生産装置をフル稼働することができ、ようやく何冊か完成するところまでこぎつけました。 それでも歩留まりはまだとても悪く、印刷担当者の負担はかなりのものです。」 部長:「うーむ、それはしかし、連続印刷しようとするからなのであって、片面印刷後しばらく静置して紙の「コシ」が戻るのを待ってから裏面を印刷するようにしたらよいのではないかな?」 制作:「そんなことはとっくにやっています!その結果がこれなのです。 部長、用紙を変更しましょう! そうすれば自動両面印刷ユニットも使用可能になりますし、紙詰まりや静置、仕上がり確認などにかかっている時間・資材・手間を大幅に削減できます。 ・・・何よりも、印刷ボタンを押すときの精神的負担がなくなれば、こんなに素晴らしいことはないです。」 部長:「うーむ・・・ しかし、手触りといい見た目といい、書籍用紙に勝るものはない。 また、この版型をとる以上、ヨコ目を採用せざるを得ない。 紙厚は、確かにもうちょっと厚手でもよいかも知れないが・・・」 仕入:「部長! その議論は一年前に初版を制作するにあたって散々したではありませんか! 印刷して配布するだけなのであれば、通常のコピー用紙で充分です。 入手が容易で最も安価ですし、紙詰まりもありません。 で、ホチキスで留めるだけの平綴じ製本とすれば、あれこれと機材を導入する必要もなく、どんどん刷り増すことができます。 それでも部長は「安っぽい」のひと言でそれを却下し、書籍用紙の導入を決められました。 で、プリンタの標準印刷サイズであるA4では「サイズが大きすぎて携帯に不向き」だという理由でそれを半分にしたA5サイズの版型にこだわられました。 印刷に適しているのはタテ目ですが、それを半分にして横置きにすると、ヨコ目となってしまい、ページがめくりにくく、背の糊もうまくつかなくなってしまいます。 それが我々が「仕方なく」ヨコ目用紙を採用した理由なのです。 部長!今からでも遅くありません。 A4が横置きで印刷できる大型プリンタを導入しましょう!」 部長:「いや、買う金も置く場所もないよ! やっぱりタテ目でないとキビシイのかなぁ。」 制作:「はい!」 部長:「営業担当よ、お前はどう思う?」 営業:「通常のコピー用紙をホチキス留めしたものなど、誰が金を出して買うもんですか! 書籍には書籍用紙、ここは絶対譲れません。 手触りやら見た目やらが全然違います。 [...]