超訳【夢中問答】
第57話 捨てるということ
2007.7.30
足利直義:「なるほど、和尚は「日常生活の全てが修行だ!」とおっしゃるのですね?
それではお聞きしますが、和尚の属する禅宗は元より、天台宗ほかの仏教各派においても、「全てを捨て去れ!!」と教えますよね。
「日常の全てが悟りにつながる」というのであれば、いったい何を「捨て去る」必要があるのでしょうか?
捨てちゃったら修行にならないじゃないですか!!
これはいったい、どういうことなのでしょう!?」
夢窓国師:「うーん、オマエさんは本当にマジメなお人じゃな。
もうちょっと物事を柔軟に考えることはできんのかいな・・・
結論から言うと、仏教における「法」と世俗における「法」は、全く同じものじゃ。
だから、日々の暮らしにおける出来事の、全てが修行だということになるのじゃ。
あんなアホみたいなことも、こんなしょーもないことも、とても嬉しいことも、極めてムカツクことも、それらのどれをとっても「修行」でないことは何ひとつとしてない。
だから、ぶっちゃけて言うなら、なにも捨てることなどないんじゃよ。
ただ、世の中はデキの悪い連中が大半を占めているので、そんな連中に向かって「何でもアリだ!」などと言おうものならそれはもう、修行や悟りとはかけ離れた、大変ことになっちまう。
だから昔から高僧たちは、とりあえず、「捨てなさい。とにかく捨てなさい!それもこれも全部捨てなさい!!」と説いたのじゃよ。
本当は何も全部捨てることはないし、もっと言えば捨ててよいものなどないのじゃが、家や職場の掃除と同じようなもんで、「選んで捨てよう」などと思ったら時間ばかりかかってしまって、ちっとも片付かないからじゃ。
まず「捨てる」、これがクリーンアップの基本じゃ!
・・・なんの話じゃったかな。
そうそう、こんな話を思い出したぞ。
昔、ブッダがまだ生きていた時のことじゃ。
弟子のひとりにスブーティ(須菩提)というのがおったのじゃが、コイツは過去500回も連続して天上界に輪廻転生したという記録の持ち主で、ようやくその記録が途切れても、人間の、しかも物凄い金持ちの王族の家に生まれたという果報者じゃった。
ブッダが究極の悟りをゲットした時、ブッダの父親だった浄飯王は、家族や親戚一同を片っ端から出家させ、ブッダの後を追わせた。
その数は500人を下らなかったそうじゃ。
スブーティもその内のひとりとして選ばれて出家することになったのじゃが、実はコイツは天上界での生活が長かった余韻かどうかは知らないが、とんでもなくオシャレが好きな性格での。
ビカビカの服を着て、ギンギラの部屋で暮らすのが大好きだったのじゃ。
で、ブッダが新しい出家者向けのオリエンテーションで「オシャレ禁止」と説明しているのを耳にして、こう思ったそうな。
「えー!?オレ様みたいなオシャレ人間に、あんなダサイ服を着て、あんな小汚い部屋に住めって言うの?・・・
どうしてもって言うなら仕方ないけど、まだもうちょっとオシャレし尽してからにしたいなぁ。
というわけで、とりあえず今日のところは家に帰っちゃえ!」
出家を辞退しに来たスブーティを見て、ブッダは自分の身の回りの世話を任せていたアーナンダ(阿難尊者)にこう命令したのじゃ。
「おいアーナンダ、オレの父さんの城へ行って思いっきり豪華な服や装飾品を借りてこい。
で、この道楽野郎の度肝を抜いてやれ!!」
アーナンダは言われたとおりに色々借りてくると、一室をあり得ないほどゴージャスに飾りつけ、スブーティをその部屋に泊まらせたのじゃ。
その部屋に入ったスブーティは、しばらく無言でいたのじゃが、深夜になった時、こう突然叫んだそうな。
「長年のオレの欲望は、今まさに満足した!」
そしてアーナンダの見ている前で、空中浮遊し始めたという。
アーナンダは何だかわけがわからなくなって、ブッダにこうたずねたのじゃ。
「な、なんスか!?あれ・・・」
ブッダは答えた。
「ああいうタイプのヤツはな、変に禁止するよりも、とことんまでやりたい放題させた方がいいんだよ。
やりたい放題させない方がいいタイプのヤツには、もちろん禁止する。
悟りを得られるかどうかは、結局その人間の心持ち次第なんだよ。
衣服や装飾なんて、本当はわりとどうでもいい。」
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