別訳【維摩経】
第6話 プールナ
2006.12.1
「解空第一」の秀才スブーティ(須菩提)に断られた世尊は、弁舌が爽やかなことに定評のあるプールナ(富楼那尊者)に言いました。
「まったく、どいつもこいつも・・・プールナ!お前はどうだ?」
プールナは、爽やかに答えました。
「結論から申し上げると、私には無理ですね。
何故ならば以前、こんなことがあったからです。
ある日私が、大きな樹の下で、新入生たちを相手に仏教の初歩的な講義をしていた時のことです。
維摩さんがつかつかとやってきて、こう言ったのです。
「はいはい、ダメダメ!そんなんじゃまるでダメじゃ!
お前さんがやっていることは、高価な食器にカスのような食べ物を盛り付けるようなもんじゃ。
よく聞きなさい。
大通りを直進しようとしている者に、横道や脇道を教えてはダメじゃ。
牛の足跡に海の水を全部入れようとしてもダメじゃ。
折角まだまっさらな初心者の心に、わざわざキズをつけるようなマネをするんじゃない!
この者たちは元々立派な誓いをたてていたのじゃが、今、まさにそれを忘れそうになっているのじゃ!」
維摩さんはそう言うと、目を閉じて瞑想を始めました。
すると何としたことでしょう!
500人以上いた新入生たちは、突如として皆それぞれの初心を思い出し、修行への誓いを新たにすると、彼の足元に平伏したではありませんか!
私はその時、人にものを教えるにあたって一番大切なのは「相手の能力・素質」をしっかりと見抜くことだということを、つくづく思い知らされたのです。
・・・というわけで、私には荷が重過ぎると思うのです。」