別訳【維摩経】
第16話 維摩、先手を取ろうとする
2007.1.8
さて、文殊菩薩率いる10万人の「お見舞い集団」が維摩の居宅に到着しました。
誰も出迎えに来ないので、どんどん勝手に上がりこむ文殊たち。
文殊が維摩の居室を覗き込むと、ガランとした何もない部屋の真ん中にポツリと置いてあるベッドに維摩が寝ているのが目に入りました。
維摩は文殊と目が合うと、開口一番ぶちかましました。
「やぁ、文殊さん、ようこそいらっしゃいました。
しかし、あなたは「来た」といっても本当は「来ていない」んですよね?
また、あなたは私を「見ました」が、本当は「見ていない」のでしょう?
わたしゃ知ってますぜ!」
すかさず言い返す文殊菩薩。
「おっと、そうきましたか・・・
そうです。あなたの仰るとおりです。
もう「来てしまった」というならば、もうそれ以上「来ることはできない」わけです。
また、「去ってしまった」というのであれば、もうそれ以上「去ることはできない」ことになります。
「来る者」は、そこから来るという「もとの場所」を持っておらず、「去る者」は「去っていく場所」を持たないからです。
同様に、「見るべきところの者」は、もうそれ以上「見ることはできない」のです。
・・・しかしまぁ、今はそのことについてはチョット横に置いておきませんか?
今日は、私は仏様の代理でお見舞いにきたのですから。」