ANCIENT CHINESE THOUGHT

孟子

別訳『孟子』

孔子の教えを受け継ぎ、「仁」と「義」を説いた孟子。厳しくも人間味あふれる対話から、その思想を軽妙な語り口で読み直します。

古代中国 儒家思想 四書

まっすぐだから、言葉が刺さる。

儒教において孔子の後継とされた孟子。堅苦しいと思われがちですが、対話には鋭い批判とユーモア、そして人への信頼が息づいています。とても真面目で、どこか愛すべき孟子の姿を、四つのエピソードから読みます。

MENCIUS · 01

梁恵王章句上7 孟子、いきなりブチかます!

2007.8.2

孟子が梁という国の惠王を訪問した時の会話です。

惠王:「やぁ、遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました!
で、今日は我が国にとってどんな利益のあるお話をして下さるのでしょうか?」

孟子:「利益?!・・・王様、何を言いだすんですか。
利益なんて考えているようでは、まるでダメです。
世の中「利益」より「仁義」です。
ただもう、「仁義」あるのみです!!

王様が「我が国の利益を重視する」と言い、
家来は「我が家の利益を重視する」と言い、
大衆は「オレ様の利益を重視する」と言う。

さぁ大変だ。
上から下まで「利益、利益」!
そんな国が長続きするハズがないでしょう!!」

惠王:「まぁ、そう言わないで下さいよ・・・
私も私なりに国のために良かれと思って努力しているんですから。

最近の私の悩みは、国民の人口が隣の国よりも少ないことです。

どうして私のところは少ないんでしょうね?」

孟子:「戦争が大好きな王様にもわかりやすいように説明しますね。

例えば戦闘の火ぶたが切って落とされたとします。

一部の兵士たちが、その剣幕にビビり、クルリと背を向けて、武器を放り出し、鎧を脱ぎ捨てて一目散に逃げ始めました。

ある者は50歩逃げたところで止まりましたが、見ると100歩逃げて止まったヤツがいます。

で、50歩のヤツが100歩のヤツを指さして笑うわけです。
「なんだい、あの臆病者!」と。

王様、これは「アリ」ですか?」

惠王:「・・・いや、それは「ナシ」ですね。
だって、どっちも逃げたことに変わりはないんだから。」

孟子:「王様、それがわかっているのだったら、そんなことで悩むのはやめにしましょう。

百姓たちを農繁期に徴集すれば穀物が取れなくなりますし、池や川に入ることを禁じれば魚は取れなくなります。

それを知っているのに「なんで人口が増えないのかな?」などと言うのは、餓死した人を見て「ああ、あれは寿命で死んだんだよ」と言ったり、ナイフで人を刺し殺しておいて「ああ、やったのはオレじゃない。このナイフがやったんだ」というのとおんなじです。

惠王:「・・・じゃあ、どうしろと言うんですか?」

孟子:「王様、人を棒で殴って殺すのと、刀で切り殺すのと、何か違いがあると思われますか?」

惠王:「・・・いや、どっちも殺すんだから、おんなじですよ。」

孟子:「では、刀で切り殺すのと、政策の失敗で人が死ぬのとではいかがでしょう?」

惠王:「・・・おんなじです。」

孟子:「城の中では丸々と肥えたウマがたくさん飼われているというのに、城の外ではたくさんの人たちが餓死しています。

これは民衆をウマのエサにしているのと全く同じです。

いったい何をしているのですか、アンタは!!」

MENCIUS · 02

離婁章句下18 水!水はいい!!

2007.7.21

徐さんが質問しました。

「そういえば、孔先生は大の水好きでした。
何かといえば、「水!水はいい!やっぱり水だよね!!」とかなんとか。
いったい、水の何がそんなに気に入っておられたのでしょうか?」

孟先生は答えました。

「ああ、それはだな。
泉の水は、こんこんと湧いては流れ出し、24時間年中無休だ。
で、流れの途中に窪みがあればそれを満たし、さらに進み続けて遂には大海に注ぎ込む。
そんな人間に、ワシはなりたいなぁ、と、おっしゃっておられたのではないかな。」

MENCIUS · 03

離婁章句下34 なんちゅう情けない・・・

2007.8.10

昔、ワンルームに奥さんと2号さんと自分の3人で暮らしていたオッサンがいたそうな。

そのオッサンは、毎晩のように出歩いては飲んだくれて帰ってくる日常。

奥さんが「いったい何処へ入ってきたの?」とたずねても、「ハッハッハ・・・お大尽のところへさ!」などとというばかり。

ある日のこと、奥さんは2号さんに言いました。

「全くウチの人ときたら毎晩飲んだくれてばかりで・・・
いっつも「お大尽のところで飲んできた」とか言い張っているけど、今まで誰もそれらしい人が尋ねてきたこともないわよね?
・・・怪しいわ。
今度出かけたら、ちょっと後をつけてみましょう!」

さて、そんなこととは露知らず、いつものようにオッサンは出かけていきます。

奥さんは気づかれないようにずっと尾行していったのですが、オッサンはあちこちとブラブラするわりには、誰に話しかけられるわけでもなく、ついに町外れの墓場にたどり着いたのでした。

何をするのかと思って見ていると、なんとオッサンは墓守のオッサンに「お供え物」のおすそ分けをねだっているではありませんか!

で、ひとしきりお供え物を食い散らかすと、次の墓場に移動して、同じことを繰り返しています。

奥さんはすっかり情けない気持ちになって家に帰ると、2号さんに事情を説明して、2人で散々オッサンの悪口を言って泣きました。

さぁ、そこへ何も知らないオッサンがいつものようにゴキゲンで帰ってくると2人に言いました。

「へっへっへ。今日もまた、お大尽にたっぷりとご馳走になっちまったぜ!!」

・・・さぁ、この話をどう思う?

世間で「偉くなりたい!」とか「金持ちになりたい!」などと願って、あれこれと奮闘している人間を見る君子の目線は、まさにこのような感じなのですよ。

MENCIUS · 04

告子章句下13 嬉しくて眠れそうもないよ!

2007.8.12

弟子のひとり公孫丑(こうそんちゅう)が孟子のところに行ってみると、先生はいつになく上機嫌です。

公孫丑:「なんか嬉しそうですね、先生。
なにかよいことでもあったのでしょうか?」

孟子:「おお、オマエか。
さっき役所から連絡があってな。
あの楽正子(がくせいし)が、国務大臣に内定したとのことなんじゃ!
楽正子はワシの昔からの弟子じゃから、芸人システムでいうならばオマエの「ニイサン」じゃ。
どうじゃ、嬉しいじゃろう?
ワシはそれを聞いて、嬉しくって嬉しくって・・・
もう、今夜はとても眠れそうもないよ!\(^o^)/」

公孫丑:「はぁ・・・そうですか。それはどうもオメデトウございます。
それにしても、いつも辛口トークばかりの先生が、そこまで他人のことをお褒めになるのは珍しいですね。
実は、残念ながら私は、楽ニイサンのことをあまりよく存じ上げないのですが、先生がそこまで喜ばれるのなら、きっと素晴らしい人なのでしょう。
楽ニイサンはバリバリと仕事をこなす、エネルギッシュな人なんですか?」

孟子:「エネルギッシュ?楽正子が?
わっはっは、何を言い出すんじゃ。全然ちがうよ!
楽正子がエネルギッシュなら、ワシなんかスーパーマンじゃ。」

公孫丑:「・・・はぁ、そうですか。
それじゃあ、きっと物凄く賢い方なのですね?」

孟子:「賢い?楽正子が?
わっはっは、あまり年寄りを笑わせないでくれ。腹がイタイではないか!
あいつが賢いというのなら、ミジンコだってノーベル物理学賞を受賞できるじゃろう。」

公孫丑:「・・・はぁ、そうですか。
それじゃあ、とっても物知りだとか?」

孟子:「いいや、全然!何も知らないに等しいよ。」

公孫丑:「・・・すみません。
私には楽ニイサンの何が素晴らしいのか、ちっともわかりません・・・
そんな人が役人に取り立てられて、いったい先生は何が嬉しくて眠れないのでしょうか?
心配で心配で眠れない、というのならよくわかるのですが・・・」

孟子:「何が心配なものか!
楽正子に任せておけば、なにごとも安心じゃよ。
アイツにはな、なかなか他の人にはマネできない長所がひとつだけある。
それは、「善を好む」ということじゃ。」

公孫丑:「「善を好む」だけですって!?・・・
そんなんで政府の要職がつとまるのでしょうか?
「善を行う」とか「善を勧める」とかなら、まだわかりますが・・・」

孟子:「わかっとらんな、オマエさんは。
つとまるも何も、「善を好む」心があるヤツは、世界の王にだってなれるのじゃ!
ましてや、こんなちっぽけな国の役人の仕事なんか余裕のヨッチャンじゃよ。」

公孫丑:「そんなもんなんですかねぇ・・・」

孟子:「そんなもんなのじゃ!
国の要職にある人間が「善が好き」ということになれば、国内はおろか、世界中から優秀な人間が集まってくること間違いナシじゃ。
「善」の理解者は、それほどまでに貴重で得がたいのじゃ。
今の世の中はたいがいその真逆で、「善が好きでない」連中が国の要職に着いておる。
そういう連中は、優秀な人たちが折角いろいろと提言してくれているのに、「はいはい。そんなコトとっくに知ってるって。」などというばかりなのじゃ。
そうなると、世界中の優秀な人間から相手にされないばかりではなく、国内の優秀な人たちまでが、愛想を尽かして出て行ってしまう。
それが現状じゃ!
優秀な人間たちがいなくなると、途端に集まり出すのがオベンチャラ集団じゃ。
そんな連中に取り巻かれていたのでは、まともな政治なんかできるワケがないじゃろう?」

公孫丑:「それはそうかも知れませんね・・・」

孟子:「そうなのじゃ!
「善を好む」心さえあれば、政治家には充分すぎるほど充分なのじゃ!
そういう意味で、楽正子のヤツは適任じゃ。
そして今、任につこうとしておる。
嬉しいなぁ!
ワシはもう、嬉しくて今夜はとても眠れそうもないよ!!」