ぶんのすけ文集
【夢魔の書】京都にて
2006.6.19
久し振りに京都に戻った。
別件の用事があったのだが、そんなことよりも旧友たちとの再会が楽しみである
・・・ふと、友人K(仮名)が実は既に死んでいるのではないかという思いがよぎる。
そういう眼で見ると、あちこちに残されている彼に関係する記録は、直接的にではないが、彼の生存に否定的なものばかりだ。
彼と親しかった女性と連絡を取り、京都大学の旧教養部構内を待ち合わせの場とした。
学内はあちこち工事中のようであったが、全体の雰囲気は昔のままだ。
しばらくすると、薄曇の空の中、黒い服に身を包んだ若い女性がやってきた。
「Kは?」と尋ねると、一言「こちらへ・・・」と言う。
旧教養部の門を抜け、東一条を渡って正門をくぐる。
正門前広場(時計台の下)の右側の暗がりにある、植え込みの一角を指さして、彼女が言った。
「彼は、ここに・・・」
「え!?・・・これ、ただの地面じゃないですか!!」と私。
「ええ。でも、彼はここにいるのです。それが彼の希望だったので・・・」
改めて指示された場所を見てみる。
銘も碑もない、単なる土の地面だ。
季節柄、雑草が少し生え始めている程度の。
よくよく見ると、硬貨が何枚か埋もれている。
誰かが供養のために置いた賽銭だろうか?
しばし、無言でたたずんだ後、私は口を開いた。
「これが彼の意思なら、私は水を与えることにしましょう。」
その方が、彼にとって供養となると考えたからだ。