東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。
※超訳文庫は好雪文庫に名称変更しました。【タイトル変更のお知らせ】

updated 2024-01-21

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好雪ひらひら

【夢魔の書】面 in BLACK

2006.8.12

男たちが5~6人、薄暗い部屋の中で囲炉裏を囲み、黙々と何やら作っている。
 
たまに囲炉裏の火で焼いたりしながら、ひたすら手作業で、それぞれに何かを作っているようだ。
 
やがて完成したようで、皆、互いに自作を見せ合っている。
 
彼らの中で一番寡黙な、主任っぽい雰囲気の男が作ったものを見て、同輩らしき男が感嘆の声をあげた。
 
「ほら、○○さんのを見てみろ。スゲーぞ!」
 
次々と覗き込んでは、口々に「おお・・・」とか「ほう!」とか「む、さすがですね・・・」などと褒めたたえる男たち。
 
私も見せてもらったのだが、それは何やら炭のような真っ黒な素材であった。
 
いったい何がそんなに凄いのかよくわからない、という顔をしていると、先ほど「スゲーぞ!」と言っていた男が解説してくれた。
 
よく見ると、その人の作ったものは炭素繊維の向きが綺麗に揃っているのだった。
 
棚においてあるサンプルも見せてもらったが、他の人が作ったものは、繊維の向きが不揃いなものもあり、その差は歴然としていた。
 
さらにその「素材」を使って作られた、2つの真っ黒な「面」を見せてもらった。
 
何やら仏の顔のようなものである。
 
片方は、ずっしりと重く、表面は黒く艶やかで、なんともいえない質感がある。
 
もうひとつの方は、同じ面なのだが、表面が粗く、白っぽくなってしまっており、ぽろぽろと剥離しかかっている。
 
成程。あの繊維の向きの揃い方如何で、仕上がりがここまで違ってしまうのか。
 
などと感心していると、もっと大きな像を見せてくれた。
 
2m四方ほどの立方体を彫りこんで作った、これまた仏教系の立像のようなものである。
 
インドっぽいテイストのその像は、不動明王にも阿修羅のようにも見えた。
 
背後に炎のような模様が掘り込んである。
 
薄暗い上に真っ黒な物体なので、細部がよく見えなかったのだが、側面に細い紙片が貼り付けてあり、それには「Nsyaku Ayura」と英文でタイプされているのが見て取れた。
 
しばらくシゲシゲと見ていると、男たちは退出し、入れ替わりに年輩(60前?)の男が、袈裟を着用した90歳近い老人を連れて入ってきた。
 
・・・和尚?
 
年輩の男がロウソクを燈すと、薄暗い部屋が少しだけ明るくなった。
 
やはり像は仏像のように見える。
 
年輩の男が口を開いた。
 
「それでは、お願いいたします。」
 
老和尚は、
「ふむ、久し振りじゃからな。ちゃんとできるかどうか、わからんぞ。」
などと言いながら、なにやらお経を読み始めた。
 
なんとも不思議な節回しのお経で、明らかに日本語ではない。
 
中国語?パーリ語?などと考えながら、和尚の背後に正座して聴く私。
 
そうこうするうちに和尚はノッてきたらしく、歌うように誦経しながら身体を左右にゆすり始めた。
 
そして、サッと前方に手を伸ばすと、カチッと何かのスイッチを入れる老人。
 
突然、珍妙なテクノのような曲が流れ始め、老人の踊りは激しさを増した。
 
・・・まるで「パッション屋良」のような動きだ。
 
呆気にとられていると、年輩の人が私に言った。
 
「ホラ!座ってないで君も一緒にやりなさい。」
 
仕方なく和尚の後ろで珍妙な動きを真似して踊る私。
 
まるで「やわらか戦車」のような甲高い歌が始まった。
 
・・・なんじゃこりゃ?インドのエアロビか?
などと思いながら、ふと横の壁を見ると、大きなポスターが貼ってあるのが目に入った。
 
1950年代風の、実に妙ちきりんな色使いのポスターで、もの凄い笑顔を浮かべながら足を高くあげて踊っている女性のイラストが書いてある。
 
その下に書いてある英文に、私の目は釘づけとなった。
 
"FOR 19MINUTES"
 
これ、19分もやるの!?

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