好雪ひらひら
【夢魔の書】部屋と彼女と私と
2008.10.17
飛鳥さん(仮名)が住んでいるマンションの一室にいる。
薄暗い部屋で、もう長いこと彼女を見かけていないなぁ、と思う。
彼女の部屋をのぞいてみると、机の上に食べ終わったばかりとおぼしき納豆のパック?が3つ積み重ねてあった。
・・・帰ってきているのか?
探してみると風呂場の方から音がする。
ああ、シャワーしているのか。
しばらくすると頭にタオルを巻いて出てきたので、遠慮がちに声をかける。
「やぁ、久しぶり」
ぎょっとしたような表情を作り、「ああ、居たの・・・」と彼女。
彼女は身支度を済ませると、すぐに出かけてしまった。
戸の外まで見送りに出ると、外は真っ暗で垂れ込める雨雲がものすごい雰囲気となっている。
「天気が悪いから気をつけてね!」と彼女の後姿に声をかける。
見送った後、なんだか心配になってくる私。
そういえば彼女、まだあの会社に勤めているのかな?
気になったので私もでかけることにした。
まるで夜のような暗さの中を歩いていると、果たして雨が降り始めた。
雨脚はだんだんと強まり、ものすごいことになってきたので雨宿りしようと思って通りすがりの体育館風の建物に駆け込む。
戸を引くと開いたので中に入ってみると、薄暗くガランとした空間が広がっていた。
よく見ると誰かがここで暮らしている気配がある。
・・・いた、うす汚いばあさん?だ。
なんだか妙なテンションのばあさんで、左手の中指の第二関節がダムダム断のように平たく割れて固まっている。
なんでもゴボウを素手ですりつぶすためなのだそうだ。
ただ、彼女の主食は、素手でひねりつぶした柔らかいキャベツのようなのだが。
見た目はグロテスクだが、なんかうまそうだ。
元がおいしいキャベツなのだろう。
外の豪雨はやむ気配を見せない。
もう4日以上、滝のように降り続いている。
さすがにこれ以上降ると、洪水とかになるのではないかと思い、外をのぞいてみることにする。
戸を開けて彼方を望むと、薄暗い中に青々とした海原?が、風雨にうねっているのが見える。
・・・ド迫力だ。
海原は見る間にうねりの激しさを増し、ついに怒涛となって津波が押し寄せてくるのが見えた。
体育館に飛び込むとばあさん?に告げた。
「窓を閉めろ!津波が来るぞ!」
締め切ってしばらくすると、建物全体に振動が伝わってきた。
波が到達したのだろう。
急にあたりが静まり返る。
・・・まさか水中に没したのでは?
ばあさん?がそわそわしている。
落ち着けと言うのだが、外が気になって仕方ないらしい。
よせばいいのに戸を少し開けたところ、大量の水が流れ込んできた。
一気に押し流される我々。 ・・・いわんこっちゃない。
仕方なく流されていくばあさん?をひっつかみ、体勢を立て直した時には既にあたりは完全に水没していた。
不思議と息苦しくはなかったので、ばあさん?がはぐれないように紐で私と結び付けて、外に泳ぎ出ることにした。
既に風雨はやんでいるらしく、日が差している。 ・・・水中なのだが。
きらきらと光る水底に人々の生活の痕跡が沈積するシュールな光景が広がる。
中古車センターみたいなところのテーブルに座ったまま固まっている人たちを発見。
よく見るとかつて一緒に仕事をした上司や仲間だ・・・
まるで生きているようなのだが、もはや微動だにしない。
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2002~2003年の取材内容を元に書かれています。