東西の古典を、きわめて平易な現代語に訳出する試みです。
意によって大幅に構成を改編し、読みやすくするために潤色を施しています。
※超訳文庫は好雪文庫に名称変更しました。【タイトル変更のお知らせ】

updated 2024-01-21

  • HOME
  • >
  • 【天王山の怪】1.むじな

好雪ひらひら

【天王山の怪】1.むじな

2005.8.6

 
ある日、すっかり夜になってしまってから、いつものように一人で走りにでかけた。
 
線路脇の道を走り、登山道の入口から急坂を登っていく。
 
このあたりは、夕方ぐらいだと犬の散歩客などが時折いたりもするのだが、暗くなってからはほとんど、というか全くひとけがなくなる。
 
今日は遅くなっちまったから、宝寺で引き返す「軟弱コース」にしとくか。などと思いつつ登っていくと、道端の真っ暗な茂みの中になにか光るものが動くのが見えた。
 
「?」と思い、一瞬足が止まった。
そしてバッチリと目があった。
縦長に開いた瞳孔、金色に光るそれはまさしくなにかの動物の眼だった。
 
「猫か?」と思った刹那、それは茂みから飛び出して、側溝に飛び込むと姿を消した。
 
あれは猫ではなかった。
私の知りうる限り、あれは「タヌキ」だ。
 
へぇ、いるんだなぁ、こんな人里近くに。
と思いつつ、ジョギングを続ける。
 
そしてその帰り道、今度は坂道を下りていこうとすると、なにかが登ってくる気配がした。
 
樹々に覆われて、真っ暗な坂の闇の中から、走って登ってくるものがある。
 
「はぁっ、はぁっ・・・」と苦しげな息づかいが徐々に近づいてくる。
 
こんな時間に何事?と自分のことは棚に上げて薄気味悪く思っていると、白いランニングシャツ姿の小太りのオッサンが一心不乱に走ってくるのが見えた。
 
なぁんだ、と思って走りながら擦れ違った。
 
と、その瞬間、オッサンの息づかいが聞こえなくなった。
 
背筋に冷たいものが走り、とっさに振り向いた。
 
・・・誰もいない。
 
その道は一本道。隠れるところはない。
数軒民家があるが、特に誰かが戸を開けて帰っていくような気配もない。
 
反対側は大念寺の墓地へと続く、急峻な階段があるのみ。
 
やられた・・・
タヌキは本当に人を化かすのだ。
 
翌日、明るいうちに現場を見に行った。
 
オッサンと擦れ違った場所はやはり、タヌキの眼を見たあの場所で、よくよく見ると、その道端にはなにかの結界を示す小さな石碑が半ば埋もれるように立っていたのであった。
 

  • 以下のメニューバーをクリック⇒ ジャンルごとに開閉
  • 画面左上の「好雪文庫」ロゴマークをクリック ⇒ 好雪文庫トップページへ戻る
  • メニュー上下の横長バーの「HOME」をクリック ⇒ 各コーナートップページに戻る
それでは、どうぞごゆっくり
↓   ↓   ↓

昔の中国の人が考えたこと

諸子百家

LinkIcon おもしろ論語(孔子)
LinkIcon 老子
LinkIcon 荘子
LinkIcon 列子
LinkIcon 孟子

四書五経

LinkIcon 【大学】

日本が誇る大学者のご意見たち。
今のところ、明治維新期に活躍した人がメインです。

LinkIcon 井上円了
LinkIcon 【西国立志編】
LinkIcon 富永仲基
LinkIcon 内藤湖南
LinkIcon 【風姿花伝】

キリストが生まれるよりも昔から、「神」と人との間にはいろいろあったのです・・・

旧約聖書

LinkIcon 【旧約の預言者たち】

中国武術家である徐紀(Adam Hsu)老師の論文をご紹介。

LinkIcon 【中国武術論】

作家による古典翻訳以外の文章です。
夢日記、怪奇体験、食べ歩き、随筆等、バラエティに富んだ独自のワールドをお楽しみくださいませ。

LinkIcon 好雪片片

霞が関官庁街の食堂めぐり記録です。
2002~2003年の取材内容を元に書かれています。

LinkIcon 昼どき!霞が関放浪記

LinkIcon ぶんちん堂 Web Shop


ぶんちん堂のコンテンツをWeb販売しております。
現時点では好雪文庫を書籍(紙・電子)化したものがメインとなります。
※電子書籍はkindle版です。

LinkIcon ぶんちん堂 公式ブログ


ぶんちん堂コンテンツの書籍化・通販などを手がける奇特集団、「ぶんちん堂」スタッフによる活動の記録やお知らせ。
当サイト主人も「作家」として登場します。