別訳【孟子】
告子章句下13 嬉しくて眠れそうもないよ!
2007.8.12
弟子のひとり公孫丑(こうそんちゅう)が孟子のところに行ってみると、先生はいつになく上機嫌です。
公孫丑:「なんか嬉しそうですね、先生。
なにかよいことでもあったのでしょうか?」
孟子:「おお、オマエか。
さっき役所から連絡があってな。
あの楽正子(がくせいし)が、国務大臣に内定したとのことなんじゃ!
楽正子はワシの昔からの弟子じゃから、芸人システムでいうならばオマエの「ニイサン」じゃ。
どうじゃ、嬉しいじゃろう?
ワシはそれを聞いて、嬉しくって嬉しくって・・・
もう、今夜はとても眠れそうもないよ!\(^o^)/」
公孫丑:「はぁ・・・そうですか。それはどうもオメデトウございます。
それにしても、いつも辛口トークばかりの先生が、そこまで他人のことをお褒めになるのは珍しいですね。
実は、残念ながら私は、楽ニイサンのことをあまりよく存じ上げないのですが、先生がそこまで喜ばれるのなら、きっと素晴らしい人なのでしょう。
楽ニイサンはバリバリと仕事をこなす、エネルギッシュな人なんですか?」
孟子:「エネルギッシュ?楽正子が?
わっはっは、何を言い出すんじゃ。全然ちがうよ!
楽正子がエネルギッシュなら、ワシなんかスーパーマンじゃ。」
公孫丑:「・・・はぁ、そうですか。
それじゃあ、きっと物凄く賢い方なのですね?」
孟子:「賢い?楽正子が?
わっはっは、あまり年寄りを笑わせないでくれ。腹がイタイではないか!
あいつが賢いというのなら、ミジンコだってノーベル物理学賞を受賞できるじゃろう。」
公孫丑:「・・・はぁ、そうですか。
それじゃあ、とっても物知りだとか?」
孟子:「いいや、全然!何も知らないに等しいよ。」
公孫丑:「・・・すみません。
私には楽ニイサンの何が素晴らしいのか、ちっともわかりません・・・
そんな人が役人に取り立てられて、いったい先生は何が嬉しくて眠れないのでしょうか?
心配で心配で眠れない、というのならよくわかるのですが・・・」
孟子:「何が心配なものか!
楽正子に任せておけば、なにごとも安心じゃよ。
アイツにはな、なかなか他の人にはマネできない長所がひとつだけある。
それは、「善を好む」ということじゃ。」
公孫丑:「「善を好む」だけですって!?・・・
そんなんで政府の要職がつとまるのでしょうか?
「善を行う」とか「善を勧める」とかなら、まだわかりますが・・・」
孟子:「わかっとらんな、オマエさんは。
つとまるも何も、「善を好む」心があるヤツは、世界の王にだってなれるのじゃ!
ましてや、こんなちっぽけな国の役人の仕事なんか余裕のヨッチャンじゃよ。」
公孫丑:「そんなもんなんですかねぇ・・・」
孟子:「そんなもんなのじゃ!
国の要職にある人間が「善が好き」ということになれば、国内はおろか、世界中から優秀な人間が集まってくること間違いナシじゃ。
「善」の理解者は、それほどまでに貴重で得がたいのじゃ。
今の世の中はたいがいその真逆で、「善が好きでない」連中が国の要職に着いておる。
そういう連中は、優秀な人たちが折角いろいろと提言してくれているのに、「はいはい。そんなコトとっくに知ってるって。」などというばかりなのじゃ。
そうなると、世界中の優秀な人間から相手にされないばかりではなく、国内の優秀な人たちまでが、愛想を尽かして出て行ってしまう。
それが現状じゃ!
優秀な人間たちがいなくなると、途端に集まり出すのがオベンチャラ集団じゃ。
そんな連中に取り巻かれていたのでは、まともな政治なんかできるワケがないじゃろう?」
公孫丑:「それはそうかも知れませんね・・・」
孟子:「そうなのじゃ!
「善を好む」心さえあれば、政治家には充分すぎるほど充分なのじゃ!
そういう意味で、楽正子のヤツは適任じゃ。
そして今、任につこうとしておる。
嬉しいなぁ!
ワシはもう、嬉しくて今夜はとても眠れそうもないよ!!」