別訳【維摩経】
第25話 天女あらわる!
2007.2.26
大勢の野次馬が見守るなか、激しい問答を繰り広げる文殊と維摩。
議論が白熱したその時です。
部屋の中空に突然ひとりの天女が出現しました。
そしてイキナリそこにいる全員の頭上に美しい天界の花びらを振りかけたのです。
菩薩たちの上に落ちた花びらは、そのまますぐに地面に落ちましたが、十大弟子たちの上に落ちた花びらは、なんと彼らの頭や身体にピタリと貼り付いてしまったではありませんか!
大弟子たちは必死になって手で引っ張ったり、日ごろ鍛えた超能力を駆使したりしましたが、くっついた花びらは全く外すことができません。
それを見ていた天女は、シャーリプトラにたずねました。
「ねぇお兄さん、どうしてお花を取ろうとするの?」
シャーリプトラは答えました。
「やかましいっ!どこの世界に花びらを全身にくっつけた修行僧がいるものか!これは我らにはふさわしくないんだよ!だから取るんだ!!」
天女は言いました。
「あらあら・・・そんな風に考えちゃ、お花に失礼だわ。
その花びらは別に「ようし、あいつにくっついてやれ!」なんて考えてあなたにくっついているわけではないのだから。
菩薩の皆さんを見てごらんなさい。
なんで彼らには花がくっつかないのだと思いますか?
悪魔は、「恐れ」のない人には襲いかかれないということがありますよね。
菩薩たちは既に、いかなる外部環境によっても左右されない心を持っています。
もちろん花がつこうがつくまいが、全く気にしません。
だから、かえって花びらはくっつかないのです。
お兄さんたちお弟子さんがたには、どうやらまだ生死に恐れがあるようですね。
眼や耳や鼻などの全身の5つの器官から受ける刺激に対する煩悩が、まだまだたっぷりと残っているのでしょう。(笑)」
シャーリプトラは、ムッとして話題を変えました。
「そういえば天女さん、あんたいったいいつからこの部屋の中にいるんだい?」
天女:「そうね、維摩のオジサマが解脱しているのと同じぐらいかしら。」
シャーリプトラ:「え?じゃあ、もうずっと長いこと?」
天女:「あら、オジサマの解脱はずっと長いあいだだと考えてるわけ?」
シャーリプトラ:「・・・・・・・・・」
天女:「あらあら。お兄さんみたいに賢い人が、どうして黙っちゃったの?」
シャーリプトラ:「うるさいな!解脱ってのはな、言葉では表現できないものなんだよ!だから・・・オレにはここで何て言ったらいいか、わからないんだよ・・・」