別訳【風姿花伝】
年齢に応じた練習方法について
七歳、十二、三歳~
2011.6.5
◆七歳
申楽(さるがく)という芸はだいたい七歳ぐらいから練習を始めるのが一般的なのですが、この年頃にあっては、とにかく「やりたいようにさせる」ことが何よりも重要です。
自然に出てくるあどけない仕草こそがこの年頃の持ち味なのですから、ちょっとぐらい外れたところがあったとしても決して「ああだ、こうだ」と指摘せず、やりたいようにやらせることです。
(あまりガミガミ叱るとやる気をなくしてしまい、能力の伸びがそこで止まってしまう恐れもあります)
かと言って、調子にのって規模の大きな舞台の初回などに出演させたりしてはいけません。
どうしても出演させるのであれば、様子を見て三回目か四回目あたりの舞台に、一番その子が得意な場面だけ出演させるようにしましょう。
また、周りの大人たちの芸を見てマネをすることがあるかと思いますが、まだそれらについて教えてはいけません。マネだけさせておくようにしてください。
◆十二、三歳~
十二、三歳ごろになるとモノごころもつき、体力もついてきますので、慎重に順序だてて、歌などを教え始めましょう。
この年頃の持ち味は、なんといってもその初々しさです。
見た目が初々しいのですから何をやらせたって得も言われぬ良さがありますし、声も耳に心地良く響く頃です。
見た目と声がいいのですから、他の色々と良くない点は全て目立たなくなりますし、ちょっとでも良い部分があるなら、さらに引き立って良く見えるという次第。
但し、この段階ではまだあまり欲を出して背伸びさせてはいけません。
無理してやろうとしても、見苦しいばかりでなく、芸の伸びに害があります。
もちろん、一定のレベルに達しているのであれば、どんどん前に出していきましょう。
見た目よく声がよく、そのうえなかなか上手であるとなれば、何も文句のつけどころはないわけですから。
人の心に「ときめき」を与える才能、これを私は「花」と呼びます。
この年頃の子には誰でもみな、自然の「花」が備わっていると言えるでしょう。
ただ、この「花」は、あくまでも四、五年であっさりと散ってしまう「かりそめの花」であり、生涯保持できる本物の「花」ではないということを忘れないでください。
私が先に「欲を出して背伸びさせるな」と申し上げたのは、つまりそういうわけだからなのです。
この年頃は、ただひたすら基礎を固める時期と心得て、やりやすくて得意なところは伸ばすようにしつつも、そうではないところについては万事基本に忠実に、動きも言葉もひとつづつ大切にして練習するようにしましょう。