別訳【風姿花伝】
年齢に応じた練習方法について
十七、八歳、二十四、五歳~
2011.6.12
◆十七、八歳
さて、この年頃になると色々とムツカシイ問題が持ち上がり、なかなか練習に身が入らないことになるかと思います。
まず、声変わりして、可愛らしかった少年の声は野太いオッサン声に変わり果て、第一の花が散ってしまいます。
そして、手足もどんどん伸びて、幼児体型由来の見た目の可愛らしさも失われます。
そんなこんなで身体条件が激変するため、これまで適当にやっておれば皆がキャーキャーもてはやしてくれたものが全然そうではなくなってしまい、とにかくやりにくくて仕方がなくなります。
何をやってもあまりウケないということになると、張り合いがないどころか恥ずかしさばかりが先に立つようになり、すっかりヘコタレてしまうというわけです。
しかし、いや、逆にそんな状況だからこそ、今こそが踏ん張り時だと心得てください。
客に指さして笑われたっていいじゃないですか!
ただもう、ひたすら練習あるのみです。
日中だけでなく、早朝も深夜も声域を広げる訓練を欠かしてはいけません。
くじけたら、本当にもうそこで終わりです。
ボーカルパートは、AからBのコードで練習するようにしましょう。
(どのコードが適しているかは、実際は人によって異なるのですが、若い頃にあまり妙なコードの練習ばかりしていると変なクセがついてしまい、歳を取るにつれて不利になります。)
◆二十四、五歳
この年頃になって、ようやくこれまで苦労して練習したものが形になり始めます。
(逆に言えば、ここからが本当の修行なのです)
身体の成長が一段落するにあたり、二つの果報が得られます。
つまり、生涯にわたる芸の基盤となる「声」と「身体捌き」です。
こうなると俄然目を引くようになり、客に鮮烈な印象を与えることができるようになります。
盛を過ぎた名人と競演して、勝つこともあるでしょう。
そして、ファンがつき始め、自分も満更でもない気持ちになります。
さて、ここに大きな落とし穴があります。
この時期の「花」もまた、生涯保持できる本物の「花」ではないということを肝に命じましょう。
ここで得た評判は、単に「若さ」と「もの珍しさ」からくるものに過ぎないのです。
目の肥えた客は、ちゃんとそこを見抜いています。
すっかりカンチガイして思いあがった振る舞いをしたり、勝手な思いつきで伝統を曲げようとしてみたり、上から目線の発言を繰り返したりするようなアサマシイことは、くれぐれもしないようにしてください。
「初登場いきなりランキング第一位!」みたいなイケイケな状態になったとしても、決して調子にのることなく、「いやいや、この高評価はオレの実力によるものではない。単にもの珍しがられているだけだ。」としっかりと思い定め、これまで以上に練習に力を入れ、苦手な分野の克服を目指すべきです。
客観的な自己評価ができなくなったが最後、あっという間に「花」は散ってしまうのですから。