別訳【列子】
4-3 聖人は誰だ?
2007.11.21
ある日、宋の国の総理大臣が孔子のところに表敬訪問にやってきました。
総理大臣:「おお、あなたが皆がほめたたえるところの「聖人」、孔先生ですね?
お会いすることができてとても光栄です!」
孔子:「聖人?何を言うのかと思えばまったく・・・(苦笑)
ワシは「聖人」なんかじゃなくて、単なる「物識りジジイ」じゃよ。
総理大臣:「え!?聖人じゃないんですか?!
・・・じゃぁ、アレですよね、あなたがいつも絶賛しているという三王(夏の禹王、殷の湯王、周の文王・武王)が聖人なんですね?」
孔子:「いやいや、彼らはみな勇気と智恵を兼ね備えた優秀な人たちで、立派にそれぞれの国を治めたのは確かじゃが、だから「聖人」かと言われるとビミョーじゃな・・・」
総理大臣:「そ、それじゃぁ、三王よりも前の五帝(黄帝、顓頊、嚳、堯、舜)が聖人なんですね?」
孔子:「うーん・・・彼らはみな仁義に厚く、素晴らしい人徳者だったのは間違いないのじゃが、「聖人」とはちょっと違うような・・・」
総理大臣:「えーっ!?五帝も違うんですか!?
・・・では、はるか昔の伝説上の王、三皇(燧人・伏羲・神農)こそが聖人なんですね?」
孔子:「む・・・三皇か・・・
彼らは人類に火や道具を使うことを教え、文字を発明し、婚姻を含む社会制度を作り上げ、医療や農業のシステムまで開発したという伝説の王者じゃ。
しかし、「聖人」かと言うと・・・どうじゃろうなぁ。」
それを聞いた総理大臣がビックリしてしまって、「マ、マジですか!・・・それじゃぁ、「聖人」なんて実在しないということですね?」と言うと、孔子は背筋を伸ばして座りなおし、しばらく沈黙した後、真顔で言いました。
「いや、聖人は実在する。
ワシもまだ会ったことがないのじゃが、ここからはるか西の彼方に、聖人がいるらしい。
何も治めていないのに彼の国はキチンと治まり、何も言っていないのに民衆はみな彼のことを信頼し、何もしていないのに彼のおかげで全ての事柄がうまく行っているのだそうじゃ。
その素晴らしさはあまりにも厖大で、とても言葉で表現することができないのだとか。
・・・あくまでも人から聞いた話なので、事実かどうかもよくわからないのじゃが、もし、本当にそんな人が存在するのだとしたならば、それこそ「聖人」と呼ぶべきじゃと、ワシは思っているよ。」
総理大臣はそれを聞くと、もう何も言えなくなってしまいましたが、心の中でこう思いました。
「このオッサン・・・テキトーなことばっかりぬかしやがって!」